森の理念について
下北山村のこと
下北山村は 紀伊半島、奈良の東南端、急峻な山に囲まれた人口約800人の小さな村です。かけがえのない美しい川、森、自然、風景があります。かつて、苗木をつくる人、木を植える人、木を伐る人、川を使って筏で木を運ぶ人がいて、村全体で林業をしていた活気のある時代がありました。
今から60年程前、池原ダム建設により多くの美林がダムに沈むこととなり、永遠に姿を消す山林立木の霊をなぐさめ感謝を捧げる「木霊慰霊祭」が池原地区にて行われました。このときの祭文には「自然を敬い山河草木を愛した村民の想い」が綴られました。山に対する畏敬の念を持ち自然の恩恵を深く理解した村民であることがわかります。
その後、木材はトラックで運搬されるようになり平成を境に木材価格が低迷。林業に関わる人が減り、森林の手入れ、木材が活用されない、木を使わない暮らしに変化。森と人の距離が遠くなりました。このままではいけない。平成27年、南村長の命で、地域の森に道をつくり、地域の人が森を育てていく、「自伐型林業」を村の方針として取り組むことになりました。森は「水」を生み出し、生きている全ての人に関わり暮らしに欠かせない大切なもの。この村の「水」を守り、森に「道」をつくり、森を「育て」森の恵みを「活かす」ため、地域おこし協力隊の制度を活用し、「森と真摯に向き合える人材」を育てていくことになりました。
「森の理念」
森を育てていくには、「人の存在」が不可欠です。平成28年、奈良・吉野の岡橋清隆さんの指導のもと、山の踏査を行い、村の山に奈良型作業道をつけ始めました。令和6年、これから下北山村の森とその森に関わる人がどうあればよいか?森と人の時間軸の違いをふまえ、未来を考えて、話し合い、想いを紡ぎ出して「森の理念」をつくりました。
森や木々が生きていく時間は、人ひとりの人生の時間よりもはるかに長いもの。苗木を植えて、育てて、収穫し、暮らしの中で活用するまでには、世代を越える長い時間がかかります。どのような森にしていくか、目的と目標をもってイメージをし手入れをしていくには、森に対する、自然に対する考えや指針、想いを持って、世代を越えて関わっていくことが重要です。同時に森に対して「真摯に向き合える人」を育てていく、人材育成が大事になります。森づくりと人づくりを大事にすることで、村の暮らしを守ることができます。下北山村の村民のみなさん、地域おこし協力隊や移住を検討されている方、村に想いを寄せていただたいている方へ、「森の理念」についてお話しします。
森の理念
森と生きる
森と人の調和のとれた暮らしを未来へ
ここでいう森は、樹木が生育している場であり、その場の生物の集まりのこと。「森」の安定、「暮らし」の安定、「森と暮らしの関係性」のバランスがとれた状態が続く、森と人の調和がとれてこそ、安心して暮らせます。「森と生きる」とは、森と人の調和がとれた暮らしを未来へつないでいくこと。下北山村の急峻な森のそばで、森のさまざまな恩恵を受けながら「森と生きる」こと、森と生きていくために、「3つの大切にしたい心」と「4つの取り組み方針」を決めました。
「3つの大切にしたい心」
森と人に真摯に向き合う
森に対する畏敬と感謝、
人に対する利他の心をもって真摯に向き合う。
多様であること
森は、種の多様性、関係性の多様性 、遺伝子の多様性が保たれていること。
人は、それぞれを認め合い、助け合うこと、個性・特質を尊重すること。
自ら考え行動し未来をつくる
自分でまずは考えてやってみることから、未来はつくられていく。
「4つの取り組み方針」
自然の摂理に沿って森を育む
自然の法則や関係性を理解し、地域の風土にあわせて、森を育てていきます。
人は少し手助けする、少し整える。 時には何もしないことも選択します。
森と人をつなぐ道をつくる
森を長期間育て、森と馴染む安定した道。 人の負担を軽減し、安全を確保できる道。
森の持つ価値を知る、安心して体験できる道をつくります。
森に人に学び人を育む
自然と人から学び、人に教え、教わり、 森との関わり方、
知恵や技術を受け継ぎ、 森と人との関わりが 途絶えないようにします。
森の恵みを無理なく活かす
受け継がれた森を丁寧に扱い、人にも無理なく、
柔軟な発想をもって 次世代へも森の恩恵が 続くようにしていきます。
下北山村の森に、作業道をつくりはじめて令和7年で10年目になります。
急峻で雨が多い村、どこでも作業道をつけられるわけではありません。
作業道を開設できる山、はやく間伐の手入れをしていかなくては手遅れになる山、
スギ・ヒノキの成長が良い山もあれば、成長がよくない山もある。
それぞれの山に沿って、手入れをしていく。
これから、この森の理念「森と生きる」を指針として、
3つの大切な心、4つの取り組み方針を軸に行動していきます。